うつくしの国

 小窓からの青白い光にあてられながら、そっと寝息を立てて美しく眠る君の隣にいる僕は、自分のあらゆる欲が満たされながら、同時に、あらゆるうす汚い自分と向き合わねばならない。

 ローア船内、自室にて。満月の夜だった。とっぷりと夜がふけて、しんとした部屋の中、僕の隣で、君が眠っている。

 たったひとりで旅をする君。床に寝るという君に、我慢ならないと言ったのは僕の方だった。どうせ僕ひとりには広すぎたベッドだ、ひとりよりもふたりのがいいに決まっている。それもそうかと、嬉しそうににこにこ笑って、君は全く疑わなかった。おやすみと小さく笑ってまぶたを伏せると、短いまつげがふるふると震えた。

 あまりに密かに眠る君は、僕が殺してしまうまでもなく、死んでいるかのようだった。足を動かして、布が擦れる音、耳を立ててやっと聞こえる寝息、かすかに上下する胸。そういうことが、生きてるという実感をなんとか繋いでいた。ただでさえ幼い顔が、もっとずっと幼く見えた。幼い表情、丸くすべすべとした若く幼いからだ、そして、幼いながらも強靭でまっすぐな美しいこころ。

 この星を守るために、何か大きな力に寵愛を受けて生まれてきたのだと、思わざるをえない。そして君はそれを、薄々分かっている。そうして、君はその若さでそれを受け入れて、自ら進んでそれをする。この星の誰かを思いやって、必ず何かを成す。

 何もかもアンバランスで、様々な危うさをもつ君は、死を隣り合わせにしても、絶妙な均衡を保って、生きている。まるで、強くてただしい、正義の権化。

 僕は、どうだろうか。

 僕は、君を利用して、自分の欲を埋めようとしている。君を、友達だと思ったことはない。もし、計画が上手くいったとしたら、それはほとんどが僕の力ではない。仮に、銀河の征服まで果たしたとして、僕はその後、彼がいないこの宇宙で、何をするのか。「今の」自分のためだけに自分のしたいことをしている。

 しかしそれの、何が悪いのだろうか。それこそ薄々悪いことなのだろうと思うが、自分のためだけに自分のしたいことをして何が悪い。汚かろうが「僕が僕にとって」正しければいいのだ。誰かのために何かをすることが、それほど美しいものか。たとえ何かを与えたとして、自分に同等の、対価のしあわせが帰ってくるのだろうか。他人のしあわせより、自分の「今の」しあわせが大事ではないのかーこんな風に思うのだ。

 美しい彼を目の前にした僕は、君のように美しく生きられないのだという事実に直面する。いくら友情まがいのものを交えあっても、分かり合えないのだと理解する。そして、そんな君の隣を独占しているという事実に喜びを感じる。君が、僕を信じきっていることに、快感がある。そんな薄汚い自分がいる。

 もうじき朝が来る。明日も君は、何かを成そうと、旅に向かうだろう。太陽が君を照らし、宇宙中の多くのものに受け入れられる中、僕はこの箱舟のなかで、そんな君を見て、嘲笑って、どこかにあると信じている、しあわせで大きな世界に、夢を見続けるのだろう。

 冷たい壁に囲まれながら、僕はまた今日が繰り返されるのを待つ。